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 2014年3月

 富士の雪形「農鳥(のうとり)」ものがたり

                 
作:おおみや ひとし
           


富士北麓は高地で冬は空っ風、夏は冷夏と農民泣かせの場所でした。

短い夏なので畑の種まきの時期も少し違うと収穫につながりません。

毎年早すぎたり、遅すぎたりして作物の出来は良くありませんでした。

ある時、庄屋さまがみんなを集めて言いました。

「この村でも毎年たくさんの作物ができるようにしたい。だれか良い考えがないものか。」

しかし、だれも良い考えが浮かびませんでした。

みんな考え込んでしまい、頭を下にするばかりでした。

そこにたくましい格好の修験者が通りかかりました。

「どうしたのかな?みんな困ったような顔で考え込んでおるが」

庄屋さまは修験者に訳をはなしました。

「毎年たくさんの作物ができるようにしたいのですが、よくできなくて困っています。」

すると修験者は言いました。

「おやまを良く見ることじゃ。毎日おやまを拝み、良く見ていればおやまがたくさんの作物が採れる時を教えてくれよう」

みんながけげんな顔でつぶやきました。

「あの富士がなにか教えてくれるだって、太陽をさえぎり、南風をさえぎり農作業のじゃまになるばかりじゃないか」

修験者はそんなつぶやきを察するように

「ここはたしかに寒い土地だ。しかしおやまはみんなを見捨ててはいない。

おやまを毎日拝んでいれば、やがて雪が融け鳥が現れるだろう。

その鳥こそおやまの恵みの鳥なのだ。その鳥が現れた時に種をまいてみなさい。その年はたくさんの作物が実ることだろう。」

そう言うと修験者は風を切るような速さで富士に向かって去って行きました。

村人は半信半疑でしたが、わらをもすがる思いでしたので、修験者の言う通りそれから毎日毎日富士を拝み見つめていました。

やがて春が過ぎ、種をまく時期が近づいてきました。

村人は毎日富士を拝み続けていました。

「もうそろそろ種をまく時期が来るけど、本当に鳥が現れるだろうか。」

村人は心配になってきました。

その時です、ある村人が富士を指して言いました。

「鳥だ、鳥が現れたぞ。あの修験者の言った通り鳥が現れたぞ」

すると他の村人も言いました。

「そうだ、わしにも見えるぞ。庄屋さまきっと今が種まきの時です」

庄屋さまも言いました。

「私にも見える。よし早速みんなを集めて種まきをしよう」

村人は急いで準備していた種を取り出し、種まきをしました。

その年の作物は修験者の言った通り、緑豊かに実り、秋にはそれまでにない、たくさんの作物を収穫することが出来ました。

庄屋さまはじめ農民は大喜びです。

その年の秋祭りは収穫した作物を富士にお供えしてお礼を述べました。

農民の一人がつぶやきました。

「あの修験者はきっと富士が姿を変えて私たちのところに来ていただいたのだ。ありがたいことだ。」

庄屋が言いました。

「これからは富士をおやまと呼び、毎年作物をお供えして鳥が出るのを待ちましょう」

別の農民が言いました。

「そうだ、この鳥を『のうとり』と呼んで、毎年この『のうとり』が現れたら種をまこう」

それからこの村では、毎年おやまを拝み「のうとり」が現れると種まきをしました。

そうして毎年たくさんの収穫ができるようになりました。

この話がきんりんの村に伝わり、富士北麓の村々は豊かな作物が採れる土地に生まれ変わることができました。

おわり

作者から

「のうとり」は富士の雪形の一つです。富士吉田市方面から富士山を見ると、初夏の頃、八合目あたりに残雪がちょうど鳥の形に見えます。

農業を始める時期に現れることから「農業の鳥」として「のうとり」と呼ばれています。

今回は、これを富士信仰の修験者を入れてお話しにしてみました。


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